奈良県の一級建築士事務所 (建築設計事務所) 中尾克治建築設計室のブログ 建築設計監理・家具デザイン・庭園デザイン


by knaw
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あぁ、焼き鳥にされた・・・

時の総務相が「トキを焼き鳥にするようなものだ!」と激怒し、工事に待ったをかけたことが
ニュースでも大きく取り上げられ建築関係でない一般の人々もその保存問題の事を知った
東京中央郵便局の建物。ちょうど一年ほど前のことだったか・・・
結局保存するファサード(建物の正面のこと)部分を当初計画の一割から三割まで増やして
当該部分を登録有形文化財にすることを目指す方針で政治決着し高層化の建て替え工事は
スタートした。現在はこんな様子。この上に約200mの超高層がまた一本建ち上がる。
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            建て替え工事が進む旧東京中央郵便局の様子

「モダニズム建築の傑作」と称されるこの郵便局舎を設計した逓信省技官だった建築家・
吉田鉄郎は「日本中に平凡な建物をたくさん建ててきたよ。」と死を前にして自らの人生を
回顧したといいます。普通に当たり前の事をやってきただけなんだ。と言っているような
滋味のあるセリフです。過度な装飾を廃し機能美を追求したモダニズムの建築は一般には
その価値があまり評価されず他にもたくさんの名建築が取り壊されてきました。この東京中央
郵便局もその悲劇に見舞われてしまったわけです。道路を挟んで現在復元改修工事中の東京駅
丸の内駅舎(こちらは既に重要文化財)とは対照的。
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          国指定重要文化財に指定されている赤レンガの東京駅丸の内駅舎は
          明治の建築家・辰野金吾の設計で1914年に竣工。現在は2012年の
          完成をめざし創建当時の姿に復元工事中。


東京駅丸の内側も高層化・近代化という話は持ち上がった事はありますが、こちらは世論に
遺すべきという風潮が多いわけです。長い間見慣れてきた外観は戦災によって失われた3階
部分や一対の球形ドーム屋根が復元され、東京中央停車場として竣工した当時の威容を取り
戻そうとしています。2002年にこの復元プロジェクトが発表されたとき、現在の姿への愛着
から反対意見も多かったらしいです。
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        東京大空襲で炎上しドームや3階部分が失われたものの堅固だった躯体構造は
        わずか2年あまりで復旧された。昭和の時代の東京駅の姿。


オリジナルの形が大事なのか長い時間をその地域の風土とともに生きてきた姿が大切なのかは
意見が分かれるところです。どちらがいいとか正しいとか安易に判断できるものでは
ありませんね。(この時の解釈では歴史的建造物は可能であるのならば、やはり本来の姿に
戻すことを正道となすべきである。として昭和の2階建て寄棟八角ドームの駅舎は姿を消す
ことになる。)

ところでこの二つの建築がある丸の内地区は歴史的建造物を保存しながら容積率(簡単に
言えば建物が建つ土地の広さに対して建てられる建物の規模のこと)を周辺地域で有効活用
できるように土地所有者は未利用容積を第三者に譲渡できる「特例容積率適用地区」と
いうものがあります。容積率を売買できるんですね。JR東日本は丸の内駅舎を高層化せずに
所有する未利用容積をお隣の日本郵政に売却したわけです。購入した日本郵政は規定容積率
1300%にさらに330%上乗せした超高層ビルを計画。こうした市場経済主義のやりとりで
本当にいい街並みや環境ができるのか疑問が残るし、そのことで保存とか解体とか運命を
左右される建築はやるせないですね。

[帝都・東京の骨格を作ってきた辰野金吾は自らが設計した丸の内駅舎が東京中央停車場と
して創建した当時の姿に戻る事は喜んでいるはず。平凡な建築をたくさん作ったと言い
残して逝った吉田鉄郎は自分の設計した建物の延命措置は望んでいないような気もするのです。]

こちらもどうぞ・・・重要文化財と特別史跡を結ぶ都市軸

こっちもね・・・重なるふたつの「近代」
by knaw | 2010-07-19 18:33 | ♪お気に入りあれこれ